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名も無き物語

短編 気高き華

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誰か、ここからわっちを出してはくれぬか。
わっちを、この籠の中から――



わっちは幼い頃に両親を失った。
行く宛てもなかった。
雨中を彷徨っていた時、わっちは拾われた。
この狭い籠の持ち主に。
わっちが閉じ込められたのは吉原という名の広いようで狭い籠の中。
わっちを拾った飼い主は変わり者だった。
この籠の中に閉じ込められているのは女じゃない。
全員男。
わっちらの閉じ込められている籠には女なんていない。
それ所か客にだって女は、いない。
わっちらは女のように美しい着物に身を包み、口には紅を差す。
それで買ってくれるのを待つ。
――わっちは、この籠の外から出たかった。
外へ出て、本来のわっちの姿に戻りたかった。
もう、戻る事なんて出来ないのに。
わっちは籠の中から煙管で煙草を吸いながら客を待つ。
わっちを買う男はそれなりにいる。
それなりにはいるが――
誰も、わっちをここから逃がそうとはしてくれぬ。
それ所か、わっちをここに縛り付ける。
籠から見える満月を見上げる。
このわっちらを縛る枠さえなければ、綺麗な景色なのに。
「――今日は、お前にしよう」
不意に、声を掛けられた。
声のした方を見てみると、そこには色男が居た。
こんな場所には全く似合わない、色男が。
「――主ならこのような場へ来なくても良かろうに」
「生憎、俺は女には興味がないんでね」
「それは残念な色男な事」
そう呟いてわっちは籠の外から出る。
一時的に、わっちを買ってくれたこの者と相手をするだけに。
わっちを買ってくれた男と座敷へ行く。
わっちの――もう一つの籠。
そこで男は酒を飲みながら聞いてきた。
「お前、ここでどれくらい男の相手をしてる?」
「そんな事聞いて、どうするつもりでありんすか」
「気になったから聞くだけだ」
「――五歳の頃からでありんす」
「今、何歳なんだ?」
「二十五歳でありんす」
「二十年も、こんな事してるのか」
「わっちは、自分からは逃げられないんでありんす。誰かがここから出してくれないと。逃げられても、見つかったらわっちは殺されるのでありんす」
「――――」
「こんな場所の主に拾われたばかりに、わっちは自由を失ったんでありんす」
男は、無言だった。
何も言わずただじっとわっちを見つめていた。
その男は、不思議な男だった。
その日以来毎日わっちを指名するようになった。
指名するわりにはわっちに何もしようとはしなかった。
ただ男は、わっちの話を聞きたがる。
どうでもいい事から、今までどんな男に抱かれて来たのか。
そんな事を聞きたがる。
男は、わっちに何かする所かわっちに触れても来なかった。
なのでわっちは男に聞く。
「――主、わっちには触れぬのか?」
「ん?」
「わっちを指名するまではあの籠にいた者達を食っていた様子とみた」
「――聞いたのか? 俺が今まで抱いて来た奴に」
「聞かぬ方がどうかしている。主、何しにここにいる?」
「お前と話をするため」
「ここはそのような事をする場ではない事、知っておろうに」
「ああ、知ってるさ。でも……たまにはそんなにガッツかないで話もしてみたいと思ったのさ」
「――――」
「そういえばアンタ、名前はなんて言うんだ?」
「――わっちに名前なんて、無いでありんす」
「ここに拾われる前まで持ってた名前は?」
「もう、忘れたでありんす」
男は酒を煽り、口を開く。
「じゃあ、俺が付けてやろう」
「え――」
「いつまでもアンタって呼ぶものあれだからな。そうだな……」
男は、窓から見える満月を見つめる。
「そういえば、アンタと初めて会った時も満月だったな……」
「そうでありんすね」
「月夜」
「え――」
「アンタの名前は、今から月夜だ」
「――名前の由来は、なんでありんすか」
「アンタは、あの満月みたいに綺麗だからよ。こんな汚れた場所で、あの満月みたいにお前は綺麗に見えた。初めてアンタを見た時――そう感じたな。俺は」
「月夜……」
どうしてか、男からもらった名が――わっちは嬉しかった。
もう本来の名を忘れてしまうほど、わっちはここに縛られていた。
この男なら、わっちをここから出してくれるかもしれない。
そうは思ったけど、絶対にわっちからは言わない。
主がここからわっちを逃がしたいと言うまで、わっちは言わない。
そう、心に誓った。
そんなある日の事だった。
「アンタ、知ってるかい?」
籠の中であの男が来るのを待っていた時だった。
わっちと同じく籠の中に閉じ込められていた仲間がわっちに声を掛けてきた。
「アンタをいつも指名してる男、あれはもうここに来れる金なんて持ってやしないよ」
「え……」
「あの男は元々そんなに金を持ってない、普通の侍さ」
「それなのにわっちらを抱きに来ていた」
「いつもなら二月に一度くらいなのにそれが毎日だろう」
「もうあの男は金なんて底を付いてるさ」
「次に来るなら、あの男は借金持ちさ」
あの男に抱かれた仲間達が口を開く。
――確かに、そんな気はしていた。
あの男の放つ雰囲気は、わっちをよく指名する男達とは違っていた。
金が底を尽きても、きっとあの男は――
「よぉ、来てやったぜ」
来るのだろう。
今日で、最後のつもりなんだろう。
「ほら、今日も俺の相手をしろよ」
そう言って、男はわっちを籠の中から出してくれる。
いつもの部屋に、男はわっちを連れて行く。
座敷に入ってわっちはすぐに男に聞く。
「主、もうここには来れぬであろう。今日で、最後なのだろう?」
「ああ、今日で最後だよ。今日だって俺は借金取りに追われてるさ」
そんな主に、言えると思うか?
わっちをここから、逃がしてくれなんて――
言えると思うか?
わっちは主の事が好きだって、言えると思うか?
「ならば、もう二度とここへは来るな」
涙が出そうで、わっちは男に背を向ける。
「二度と、わっちの前に顔を見せるな」
声を振るわせないように、声を絞り出す。
――わっちは、もう使えなくなるまでここで働かされる。
使えなくなったら、刀で切られる。
そういう、運命。
「ああ、そうするよ」
男の、切なげな声が背後で聞こえる。
嗚呼、これで終わり。
そう思った時――
男が、背後からわっちを抱き締めた。
驚いてわっちは思わず――涙を零してしまった。
「だから……逃げよう。俺と一緒に。追われるなら月夜も一緒だ。ここから逃げても追われる月夜と、借金取りに追われる俺。全然違うけど、同じだろ?」
男は小さな声でそう囁いた。
「俺、月夜を初めて見た時から月夜の事が好きだった」
わっちは多分、主からその名をもらった時に主に惚れた。
「月夜、逃げよう」
一番欲しかった言葉を、主はわっちにくれた。
涙に頬を濡らしながら、わっちは男と向き合って強く抱き締める。
主は、こんなにも穢れたわっちを好きになってくれた。
こんなに汚い身体に、触れてくれる。
抱き締めて、好きだと言ってくれた。
ここから逃げようと、言ってくれた。
ここで最後に、ここでのわっちの最後を過ごした。
初めて好きになった男と、初めて愉しい夜を過ごした。
愉しんだ後は――
「月夜、俺はお前のその髪が好きだ。髪だけじゃない、全部」
男はわっちの髪を撫でてそういう。
二十年間、ずっと伸ばしていた長いわっちの髪を。
男は持って来ていたのだろう、鋏を手にしていた。
それを見て、わっちはただ頷く。
男は静かにわっちの髪に鋏を入れ、髪を切った。
耳が見えるほど短く切り、男が持って来ていた男の服を身に包む。
「これで、誰もお前だって気付かない」
そう言って男はわっちの紅を拭ってくれる。
「よし、逃げよう」
そう言って男は切ったわっちの髪を全て片付けて懐に入れた。
先に男が部屋から出て、座敷から出る事が出来た。
問題は、ここから。
わっちは男の肩を貸してもらい、酔っ払いのふりをして吉原から出て行く。
上手く逃げられたら、そうだな。
一緒に主と暮らしたいな。
逃げてでもいい。
主と共に、幸せに暮らしたい。
死ぬ時も、一緒でありんすよ?




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