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名も無き物語

短編 大好きだったんだ

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俺はずっと、父さんが大好きだった。
どんなに母さんに暴力を振るっていても、大好きだった。
父さんの作ってくれる、料理が大好きだった。
酒に酔って蹴ったり殴ったりして来ても、父さんが大好きだった。
不倫相手を家に連れて来ても、大好きだった。
母さんを殴って、無理矢理離婚届を書かせて離婚した時だって――大好きだった。
一時的にも施設に入れられた時だって、ずっと父さんの事だけを考えていた。
施設から出て、不倫相手と父さんと俺の三人で暮らす事になっても、大好きだった。
父さんが不倫相手と愛し合っているのを見ても――ずっと、大好きだった。
俺はとにかく、父を愛していた。
ずっと、父さんが大好きだった。
だからどんな事だって許せた。
そう、どんな事でも。
不倫相手と別れて、母さんとよりを戻してから何年か経った頃。
中学一年の時、父は飲酒運転をした上に子供を殴った。
それで刑務所に行った。
それでも俺は、父さんが大好きだった。
だから俺は、父さんが戻って来るのを待ってたんだ。
俺の誕生日になんとか出て来られて、父さんは泣いた。
泣いて謝って来た。
だから俺は許した。
父さんが大好きだったから。
父さんは約束した。
もう絶対に誰も殴らないって。
もう二度と、飲酒運転はしないって。
でも車に乗りたくても父さんは免許剥奪されたから無理だったけど。
母さんが車を持ってたから、奪い取って無免許なのに乗ってた。
もちろん、酒を飲みながら。
俺は、なんでも許せた。
父さんが大好きだったから。
だから、許せたんだ。
そう、あの時だって――
中学三年の冬。
俺達の乗った車は人身事故を起こした。
山道のカーブでスリップしたんだ。
もちろん運転していたのは父さん。
当たり前のように酒を飲んでた。
車は砂利の落ちているカーブでスリップして、最初に左側の前輪が溝に落ちて。
それを走りながら持ち上げたら今度は左側の後輪が溝に落ちて――
溝の終わりにタイヤが勢い良くぶつかって、上に弾かれてなんとか車は止まった。
でも俺は――
溝にタイヤが当たった時に後部座席のドアが変形して、そこが少し突き出ていた。
そこで俺は打って、右眉の上に傷が出来た。
八針も縫った。
俺さ、忘れないよ。
多分、一生だって忘れない。
あの時の父さんの言葉を。
父さんは車が止まってから車から降りて車の状況を見て――
俺らの後ろを走っていた車の運転手が驚いて駆け付けてくれて。
俺が額から大量の血を流してるのを見て携帯電話で救急車を呼ぼうとした時。
「ああ、大丈夫ですから。なんでもないですから。おい、早く血を止めろ。ただの鼻血だろ」
そう言って、運転手をその場から遠ざけた。
そして父は俺達にこう言った。
「いいか、俺は運転してない。助手席で寝てた。運転は母さんがしてた。母さんが勝手に事故を起こした。聞かれたらそう答えろ。いいな? 俺は無免許だし、飲酒運転してたし。それがバレたらすげー罰金払わないといけないからな。絶対にそう言え。いいな」
俺はただ、頷いた。
――俺、知ってるから。
父さんは俺よりも自分が大切なんだって。
だから許せたんだ。
でもその日は携帯を持ってなかったから困ったな。
通る車も少なかったし、ようやく止まってくれたかと思ったら携帯持ってない人だったし。
でも、なんとか病院に着いて八針縫ったけど。
よく聞いたら、頭蓋骨が見えてたらしいじゃないか。
それだったらあんなに血が出た理由がわかるよ。
でも、これも忘れないな。
父さん、救急車で運ばれている時に泣きながら謝ってたな。
ねぇ、どうして謝るくらいなら最初からしなければいいのに。
後悔するくらいだったら、最初からしなければいいのに。
そう思ったけど、俺は言わなかった。
それに怒らなかったよ。
父さんが大好きだったから。
その日の晩、何回も泣きながら謝ってきたね。
何回も、痛いだろうって聞いてきたね。
痛くないよ、俺は大丈夫。
何回もそう言ったね。
だって実際に痛くなかったから。
俺ね、父さんが大好きだったんだ。
あの日までは――
年を越したくらいの事。
父さんが急にこんな事を言い出した。
「次、母さん殴ったら俺捕まるから。だからその時は止めてくれ」
そうやって約束した。
それから数日後。
父さんと母さんは喧嘩した。
俺は父さんが母さんを殴ったり蹴ったりしないように止めようとしたけど――
父さんの動き、速いから止められないよ。
だから、何回も呼んだよ。父さんの名前を。
それでも父さんはやめなかった。
俺は、父さんと離れたくなかった。
父さんと一緒に居たかった。
だから大嫌いな母さんの前に立ちはだかった。
本当はしたくなかったけど、父さんを睨み上げた。
本当は怖くて、全身震えてたよ。
そしたら父さん、俺の左腕を掴んで言ったよね。
「なんだ、お前は……」
――ごめん父さん。
俺、父さんを止められなかった。
怖くて、母さんの前から退けたんだ。
だって父さん、母さんを殴ってる時のあの怖い顔なんて――
俺に向けた事なんてなかったじゃないか。
あんな血走った目で、俺を見た事なんかなかったじゃないか。
母さんが警察を呼んで、警察が来る前に父さんは言ったね。
「お前、母さんの所に行け。お前はもう、いらない」
父さん、俺――父さんが大好きだったんだ。
ずっと、大好きだった。
本当は、愛していたのかもしれない。
家族愛じゃなくて、一人の人として。
ろくでなしの父さんを俺は、愛していた。
でも、その一言で俺は父さんが大嫌いになったんだ。
大好きな父さんに、大嫌いな母さんの方へ行けって言われたのが、ショックだった。
だから俺、父さんの事が大嫌いになったんだよ。
俺、絶対に忘れないから。
父さんのあの時の言葉を。
死んでも絶対に忘れない。
俺、父さんが大好きで大嫌いなんだ。
父さん、死ぬほど愛しくて殺したいくらい憎い父さん。
俺は、怒りを抑えられなかった。
だから俺は、留置所に行った父さんを本当に刑務所に入れてやろうとした。
俺は、怒ったらすごいんだよ?
でも母さんが甘かったかったから、優しいから、馬鹿だから。
父さんを許して解放した。
父さん、俺――父さんが嫌いだ。
考えただけで怒りを感じるほど、嫌いだ。
出来るなら、殺してやりたいくらいに。
父さん、アンタは死ぬまで後悔すればいいんだ。
自分の今までして来た事を全部。
俺に傷を付けた事を、一生背負って生きればいいんだ。
父さん、俺――
本当に父さんが大好きだったんだ――




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